所得税の確定申告義務が一部見直されます

2022.01.07

税務トピックス

所得税

所得税の還付申告義務の見直しについて

令和3年度税制改正により、所得税の還付申告義務の一部が見直されました。

対象となる還付申告は、翌年3月15日までに申告をする義務がなくなり、
翌年1月1日から5年間のうち、好きなタイミングで還付申告ができるようになります。

確定申告会場における密集防止などのための見直しです。

令和3年分の確定申告から、適用が始まります。

 

改正前の確定申告義務者とは

改正前のルールでは、その年の所得税の額が配当控除の額を超える場合、
確定申告をしなければならないとされていました。

給与所得者や公的年金の受給者などには、確定申告を不要とする
一定のケースが別に存在しますが、これにあてはまらないケースは、
上記のルールで確定申告義務があるかどうかを判断することになっていました。

そのため、源泉徴収税額や予定納税額の控除によって納税額がなくなり、
還付申告にあたる場合でも、本来は確定申告が義務付けられている対象
だったのです。

この場合、控除しきれなかった源泉徴収税額や予定納税額の金額を記載した
確定申告書を、翌年1月1日から3月15日までに提出しなければ
ならないこととされていました。

 

申告義務がなくなる還付申告の範囲

今回の見直しによって申告義務がなくなるのは、所得税額から
下記のいずれかの金額を控除しきれなかった場合に行われる還付申告になります。

・源泉徴収税額

・予定納税額

・外国税額控除の額

源泉徴収税額による還付申告とは

源泉徴収税額とは、給与、退職金、公的年金、一定の報酬などの支払い者が、
これらを支払うタイミングであらかじめ徴収する所得税(復興特別所得税を含む)
のことです。

1年を終えて、その年の所得税が源泉徴収税額よりも少なくなることが
わかった場合、源泉徴収税額と実際の所得税との差額を、
還付申告によって受け取ることができます。

 

予定納税額による還付申告とは

予定納税とは、前年に発生した経常的な所得(事業所得、不動産所得、
給与所得など)から計算した所得税(予定納税基準額)が15万円を超える場合、
その3分の1に相当する金額を、その年の7月と11月に、その年の所得税の
一部としてあらかじめ納税しなければならない制度のことです。

確定申告時に納税資金が不足してしまう事態を防止するための制度になります。

しかし、前年よりも所得が減少し、その年の実際の所得税が、予定納税によって
納めた税額よりも少なくなる場合、還付申告によって、予定納税によって
支払った額と実際の所得税との差額を受け取ることができます。

なお、予定納税基準額は源泉徴収税額を控除して計算するため、
予定納税額が生じるのは、主に個人事業主などであるといえます。

 

外国税額控除の額による還付申告とは

所得税上の居住者(日本に住所がある人など)には、原則として
国内・国外で発生したすべての所得に、日本の所得税がかかります。

しかし、国外の所得には、その国の所得税にあたる税金も
発生する場合があります。

所得税の外国税額控除とは、この場合の二重課税を防止するために、
日本の所得税の納税額から外国の所得税に相当する税額を控除できる制度です。

日本の所得税の納税額から控除しきれない金額があれば、
還付申告の対象になります。

 

還付申告義務の見直しの注意点

還付申告は、忘れていたとしても5年で還付の請求権を失うだけで、
特にペナルティはありません。

そのため、こうした申告義務が存在していたことをそもそも認識
していなかった方がほとんどではないでしょうか。

認識があやふやな部分の改正であるからこそ、今回の見直しで
注意しなければならないのは、確定申告をする必要のある方が
「自分も申告しなくて良くなった」と誤解してしまうことにあります。

特に注意しなければならないのは、事業所得や不動産所得のある人が、
「青色申告特別控除65万円又は55万円」の適用を受ける場合です。

この控除は、結果的に還付申告になる場合でも、本来の確定申告期限である
翌年3月15日までに、貸借対照表等を含む青色申告決算書を確定申告書に
添付して提出しなければ、適用することができません。

このことを誤解して、5年間のうち好きな時期に申告をしても、
65万円又は55万円の控除は受けられないことに注意が必要です。

この他にも、確定申告や青色申告をすることを適用要件とする税制があります。

還付申告になるからといって、確定申告をする必要がなくなるわけではありません。

迷ったときは税理士や税務署にご相談ください。