個人事業主から法人成りのメリット・デメリット

2019.01.30

税務トピックス

法人は、個人よりも節税面などで利点があります。
しかしながら、どのタイミングで法人成りするか見極めるには、法人成りによるメリットとデメリットを知った上で、シミュレーションを行うことが重要です。
今回は、個人事業主から法人成りする一般的なメリット・デメリットについて解説します。

個人事業主から法人成りするメリット

個人事業主から法人成りするメリットは
・所得に対する税額が下がる
・役員報酬でさらに節税
・経費にできる範囲が広がる
・配偶者(特別)控除・扶養控除が可能に
・事業承継が円滑に行える
・設立2期間の消費税を免除できる

です。

メリット1:所得に対する税額が下がる

個人の所得にかかる税(個人所得税、個人事業税、個人住民税)には、所得が高くなるほど大きく上昇するという特徴があります。
これは、個人所得税の税率が、超過累進税率という所得の高い部分ほど税率が高くなる仕組みだからです。
個人所得税の税率は5%から最大45%まで上昇し、他の税と合わせると、概ね所得600万円から700万円の間で25%(※)を超え、2,000万円を超えると40%台(※)になります。
一方、法人の所得にかかる税(法人税、地方法人税、法人事業税、地方特別法人税、法人住民税)は、段階的に税率が上昇するものもありますが、個人ほど大きな上昇はありません。中小法人の場合、所得の金額に応じて概ね25%から30%ほどの税率で抑えることができます。
税率で比較すると、所得600万円から700万円あたりで個人にかかる税率と法人にかかる税率が逆転し、法人にかかる税の方が安くなります。
さらにメリット2で解説する役員報酬の活用次第で、もっと早い段階で法人にかかる税の方が安くなるケースもあります。

(※)税率は、青色申告特別控除額65万円・基礎控除38万円のみを考慮。事業税率5%として計算したもの。

メリット2:役員報酬でさらに節税

法人成りすると、代表者など役員に支払われるお金は「役員報酬」として経費となるため、法人の所得を抑える節税効果があります。
さらに役員報酬は、個人の所得で「給与所得」に区分され、「給与所得控除額」を差し引いた分にしか課税されません。個人事業税もかからないことから、「役員報酬」は、個人の課税においても節税効果があるのです。

たとえば事業所得600万円の個人事業の場合、青色申告特別控除額65万円、所得控除は基礎控除額のみとすると、その税額は約106万円です。
一方、法人で600万円の所得があり、仮に300万円ずつ夫婦に役員報酬として支出できたとすると、法人の税額は7万円(法人住民税の均等割)、個人の税額については1人あたり約23万円(※)、合計税額は約53万円です。
同じ所得なのに、法人の税額は個人の約半分になることがわかります。

(※)給与収入300万円から給与所得控除額108万円と基礎控除額を控除し、個人所得税と個人住民税を合計したもの

ただしこの例はあくまで役員報酬の節税効果を説明するためのものになります。
実際には、法人の所得をぴったり役員報酬に振り分けるのは難しいので、まず必要な収入から役員報酬を決めて、シミュレーションしてみてください。

メリット3:経費にできる範囲が広がる

個人の場合、親族への給与は専従者給与でなければ経費にできません。
一方、法人の場合は、親族に支払った給与は、専従者でなくとも全額経費にすることができます。
また、個人はプライベートにかかる支出について、その金額が私費と区別できる部分しか経費にできないことに対し、法人は、個人とは別人格として扱われるため、社内規程を整備することで経費にできる範囲を広げることができます。

メリット4:配偶者(特別)控除・扶養控除が可能に

合計所得が所定の額以下の配偶者や親族と生計を同じにする場合、その生計を同じにする人は、配偶者(特別)控除・扶養控除を受けることができます。
しかしながら、その配偶者や親族が個人事業から専従者給与を受け取っている場合、上記の要件を満たしていたとしても、控除の対象にはなりません。
一方、役員報酬を受け取る配偶者や親族については、その報酬額が所定の額以下であれば、配偶者(特別)控除、扶養控除の対象になります。

メリット5:事業承継が円滑に行える

個人事業は個人のものなので、それを承継するには、事業を譲り渡した者が事業を廃止し、譲り受けた者が新たに開業するという別個の手続きが必要です。
一方、法人は法人格のもと事業を行っているため、代表者を変更し登記を行うことで、事業を次の経営者に譲ることができます。
特に役立つのは、事業用の口座の扱いです。
個人事業主の事業用の口座は個人名義ですので、万が一個人事業主が亡くなると、その相続手続が完了するまでは、口座が凍結されてしまいます。
つまり、取引先への支払いや引き落としができなくなり、事業がストップしてしまうということです。
これが法人名義の口座であれば凍結はされません。
代表者を変更することで、円滑に次世代で事業を承継することができます。

メリット6:設立2期間の消費税を免除できる

個人事業者が新たに設立した法人に事業を引き継がせる法人成りをした場合、個人事業者と法人は法律上別個のものなので、その新設法人の納税義務の判定に法人成り以前の個人事業者の課税売上高は関係しません。(特定新規設立法人を除く」
 そのため個人事業者の課税売上高が1,000万円を超えた場合、その課税売上高が1,000万円を超えた年が基準期間となる年の前年に資本金の額1,000万円未満の法人を新設して法人成りすると、新設法人の設立1、2期目(※)は基準期間がないため原則として納税義務はありません。
※2期目も消費税が免除となるためには、①特定期間の課税売上高、②特定期間の給与等支払額の要件を満たす必要があります。
①特定期間の課税売上高が1,000万円以下の場合
特定期間の売上額が1,000万円以下の場合は、2期目も免税の対象となります
②特定期間の給与等支払額の合計額が1,000万円以下の場合
給与が1,000万円以下の場合でも、免税の要件を満たします。売上を調整するのは難しいかもしれませんが、給与の調整によって1,000万円以下にできる場合は多くあります。

個人事業主から法人成りするデメリット

個人事業主から法人成りする主なデメリットは
・設立の費用
・税務が大変に
・支出が増える
・自由にお金を使えない
です。

デメリット1:設立の費用

法人成りにかかる費用は
・定款作成費用
・登記費用
・専門家への手数料
などです。
定款作成費用では印紙代と公証役場に支払う費用がかかり、登記費用では法務局に支払う登録免許税がかかります。
この2つだけでも費用は概ね25万円です。
さらに、定款作成や登記申請などを専門家に依頼すると、その分の手数料が発生します。

デメリット2:税務が大変に

個人の場合、税務署に確定申告を行えば、都道府県や市町村には確定申告する必要はありません。
これに対して法人の確定申告は、税務署、都道府県、市町村の3箇所に行います。
申告書の内容も個人に比べて複雑ですので、専門の従業員を雇うことも検討する必要があります。

デメリット3:支出が増える

法人成りして増える経費で注意が必要なのは、社会保険料です。
社会保険料とは、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料のことで、従業員と法人が折半して支払わなければなりません。
メリット1、2で解説した税額では、社会保険料の増加分を考慮していません。
したがって実際は、従業員数やその支払給与額から増加する社会保険料を見積もり、シミュレーションをする必要があります。
また、法人にかかる税金のうち法人住民税には「均等割」といって、所得に関係なく課される税金が発生します。
金額は、最低7万円で、資本金の額や従業員数などで上がります。
所得がマイナスでも、法人住民税の均等割だけは発生するので注意が必要です。

デメリット4:自由にお金を使えない

個人事業主は、事業で得たお金を、好きな時に好きなだけ使うことができます。
一方、法人成りすると、いくら代表者であっても法人のお金を私的な用途で自由に引き出すことはできません。
法人成り後に使えるお金は、役員報酬として受け取った額のみです。
役員報酬は基本的に定期・同額で支払うことで経費にできるため、法人成りすれば、毎月決まった額しか受け取れなくなると考えてください。

個人事業主が法人成りするメリット・デメリット

個人事業主が法人成りする一般的なメリット・デメリットを解説しました。
現在の所得、経費がどのくらい増減するか、役員報酬はいくらあれば生活できるかなど、1人1人の状況で法人成りするタイミングは異なります。
定期的にシミュレーションするとよいでしょう。