2020年4月から施行される「配偶者居住権」とは

2019.09.13

税務トピックス

相続・資産税

配偶者居住権とは

 

 

配偶者居住権とは、被相続人の夫や妻が、生前の被相続人と暮らしていた家屋を無償で使用する権利のことをいい、2020年4月1日以降に開始した相続から家屋に対して設定することができます。

通常、家屋の所有権を相続すれば、自動的にその家屋で暮らす権利も得ることとなりますが、配偶者居住権とは、配偶者が被相続人と暮らしていた家屋を相続する場合に限り、居住権を所有権から分離させたものとなります。

後述の配偶者短期居住権と区別して、配偶者長期居住権とも呼ばれます。

 

配偶者居住権を設定する目的

 

配偶者居住権は、夫や妻に先立たれた配偶者の生活保障を目的とするものです。

年々進行する高齢化と平均寿命の延長から、夫や妻に先立たれた高齢の配偶者は、その後独りで何年も生活しなければならず、そうすると相続では、自宅だけでなく生活費の確保も必要になります。

ところが、遺産の大半が自宅である場合、配偶者が自宅を相続すると、生活費となる財産を相続できなくなる場合があります。

例えば・・
夫に先立たれ、相続人が妻と長男の2人の場合、妻の法定相続分は2分の1です。

もし遺産が自宅(評価額2,000万円)と現金2,000万円だった場合、妻が自宅を相続すると、それだけで妻は、法定相続分相当の財産を得たことになってしまいます。
もちろん、話し合いをして妻が多く財産を相続することも可能ですが、長男が承諾しなければそうはいきません。

 

この問題を解決する方法として誕生したのが、配偶者居住権です。

家屋の所有権を「配偶者居住権」と「配偶者居住権という使用制限のある所有権」に分離し、妻は前者を、長男は後者を相続します。

家屋の所有権を2つに分けることで評価額も分けることができるため、それにより妻は自宅以外の財産も相続できるようになります。

 

配偶者居住権の設定と登記

 

配偶者居住権は、遺言や遺産分割によって設定することができます。

配偶者が亡くなるまで設定することもできますし、一定期間とすることも可能です。

また、配偶者居住権は登記することによって、第三者に対抗することができます。

たとえば配偶者居住権付きの所有権を相続した子供が、その家屋を第三者に譲渡しても、配偶者居住権を登記していれば、新しい所有者に対抗する(居住を続ける)ことができます。

配偶者居住権の評価額(簡易的な方法)

 

配偶者居住権は家屋に設定される権利ですが、家屋と同時に敷地の使用権も取得するため、家屋だけでなく敷地の使用権も含めた評価が必要となります。

大まかな評価方法は、家屋と敷地の相続税評価額から、それぞれの配偶者居住権付き所有権の価額を差し引くという方法です。

<配偶者居住権の評価方法>
配偶者居住権の価額 = 家屋・敷地の相続税評価額 - 家屋・敷地の配偶者居住権付き所有権の価額

 

配偶者居住権は、通常の所有権から使用権を一定の間排除するものですので、配偶者居住権が存続する年数が長いほど、配偶者居住権付きの所有権の価額は下がり、配偶者居住権の評価額は上がります。

配偶者居住権が終身にわたって設定されている場合、存続年数は平均余命から算定します。

また家屋については、法定耐用年数から算定した残存年数も考慮します。

なお、それぞれ法定利率を用いて現在価値に割引きます。

<家屋の配偶者居住権付き所有権の価額>
家屋の相続税評価額×{(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数}×存続年数に応じた民法の法定利率による複利原価率(※)
<敷地の配偶者居住権付き所有権の価額>
敷地の相続税評価額×存続年数に応じた民法の法定利率による複利原価率(※)

(※)法定利率に基づき、現在価値に割引いた価額を計算するための係数

 

配偶者短期居住権とは

 

配偶者短期居住権とは、被相続人名義の家の同居していた配偶者が、相続開始後、最低でも6ヶ月の間、その家で暮らし続けることができる権利のことです。

現行制度は、被相続人が配偶者以外に自宅を遺贈した場合や、配偶者が住み続けることを認めない旨の意思表示があった場合、配偶者は相続の開始時に、自宅で暮らす権利を即座に失いますが、改正後(2020年4月1日以降)は、この不合理が解消されます。

 

配偶者居住権の相談は専門家へ

 

配偶者居住権の設定が必要となるのは、配偶者と他の相続人の関係が良好でない場合や、配偶者以外の他の相続人の生活が既に困窮している場合等が考えられます。

このような場合、配偶者居住権の設定を他の相続人が快く承諾してくれるとは限りません。

こうした事態が予測できる場合、生前の相続対策が重要です。

配偶者居住権の設定や相続対策のご相談は、相続の専門家に行いましょう。